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トピックス/TOPICS

身近なテーマを題材に、雑文を書いています。興味のある方はどうぞご覧下さい。

[バックナンバー]
6.大地震による堰止め現象及び堰止め湖の呼称について

2008年5月12日、中国四川省で大きな地震(四川大地震)が発生しました。内陸部としてはきわめて大きな地震であったため、建物の倒壊や土砂崩れなどで5月28日現在、死者約6.7万人、行方不明者約2万人が確認されています。また、震源が山地域にあたるため、多くの山崩れが発生し、河川を堰き止め、閉塞湖が形成されました。

このような閉塞湖、かつては天然ダムと呼ばれていましたが、2004年の中越地震の際に、呼称が変更されました。そのいきさつは以下のとおりです(朝日新聞2004年11月12日夕刊)。

「新潟県中越地震の地滑りで、山古志村と小千谷市を流れる芋川にできた「天然ダム」について、国土交通省は12日、今後は「河道閉塞(かどうへいそく)」と呼ぶことを決め、関係機関にも同調を求め始めた。地元などから「『天然』という言葉には『美しい貴重なもの』というプラスイメージがあり、被災のひどさが伝わらず、違和感がある」との声が上がっていた。」

これに対して、翌13日付の朝日新聞天声人語は、「地元の人から見れば、おぞましい光景で、『天然』という言葉がうわついて聞こえるのはもっともだろう」と同調しています。

そうでしょうか。

なぜ、「天然」が美しい貴重なものを示すのか、私にはとうてい理解できません。ネットで「天然」を検索すると、天然ガス、天然ぼけ、天然温泉、天然酵母、天然パーマとたくさんでてきますが、「美しい」、「貴重な」の意味に限定されて使われているものなど、どこにもありません。「天然」とは「自然」の同義で英訳すればともにNaturalです。したがって、「天然ダム」には「(地震による土砂崩れによって)自然に出来たダム」という意味以外、あり得ません。

しかし、ネットでいろいろ調べてみると、やたら「天然」とか「自然(ナチュラル)」という言葉を配した商品がたくさんあることに気がつきます。例えば某洋酒メーカーの「南アルプス天然水」。美しい南アルプスの山並みを背景に清らかな清流の映像。はああ、これか。

要するに、日本人は「天然」とか「自然(ナチュラル)」という言葉に極端に弱いのです。南アルプスの山麓を流れている河川の水なら 「天然」であることは間違いありませんから、そもそも、天然という言葉を付ける必要などないのです。そこにわざわざ「天然」をつけることによって「人工ではない自然なもの」というイメージをことさら強調する。愚かな消費者は気持ちよく洗脳され、CM映像から「天然」という言葉に「美しい貴重なもの」というイメージを勝手に抱いてしまう。企業にとってこれほど便利な言葉はないでしょう。

例えば普通のワインを「天然ワイン」などと表現するようなものです。フランスでこんな表現したら大変なことになるでしょう。かの国では天然でないワインなど存在しないのだから。もし、添加物が無添加であることを言いたいのであれば、例えば「酸化防止剤無添加ワイン」と言えばいいのです。また、いろんな添加物やアルコールを混ぜた「ワインみたいなもの」があったとしても、それを「人工ワイン」と呼ぶのは間違いです。人工だろうがなんだろうがそれは「ワイン」ではないのですから。「人工」という言葉を免罪符にした偽物が平気でまかり通る日本では、やたら 「天然」を冠して「本物」をアピールするという悪しき風習ができてしまい、「天然」に対して間違った印象を与えるようになってしまったのでしょうか。

前述したように、「天然」という言葉は「自然」に置き換えられ、つまり、天然ダムとは地震や火山噴火によって「自然」に形成されたダムのことであり、土木工事で作られた「人工」ダムに対する意味で使われているです。地元の声および天声人語を書いた朝日の編集委員の意見は、上記のような社会的な背景を反映した、ただの誤解に過ぎないことがわかります。

また国土交通省は、「天然ダム」にかわる言葉として「河道閉塞」を提案していますが、これは、地震や火山噴火によって河道が堰き止められることを意味し、従来から使われてきた学術用語です。ですから、一般の人々になじみがないのは当たり前で、結局、国土交通省国語審議会(冗談です)の願いもむなしく、「河道閉塞」という用語は一般には定着しませんでした。



では、四川大地震で多数の「天然ダム」が形成された現在、どのような言葉が使われているのでしょうか。インターネットで調べてみました(表1)。

河道の閉塞現象としては、「天然ダム」以外に、「土砂ダム」、「土砂崩れダム」という言葉がよく使われているようです。中でも「土砂ダム」が全体の6割以上を占めています。一方、「天然ダム」はいちゃもんをつけられたおかげで、マスコミで使われることがなくなり、10〜20%程度となってしまいました。また、閉塞の結果、誕生した湖については、検索エンジンによって大きな差が生じ、googleでは「地震湖」と「堰止め湖」がほぼ半々、yahooでは「地震湖」が全体の9割を占めています。

一方、新聞各紙はどの用語を使っているのでしょうか。各社のWEBサイト内を検索した結果を、表2に示します。堰き止め現象そのものは、「土砂ダム」が3紙で使われています。読売は土砂崩れダムで統一しているようです。一方、河道閉塞の結果、誕生した湖については、読売、日経が「堰(せ)き止め湖」、朝日が「地震湖」を使っています。いずれにせよ、新聞各社はほぼ使用する用語を社内基準で統一しているようです。

私は、堰き止め現象については今でも「天然ダム」がもっともふさわしいと思っています。知識がないゆえの誤解により不当な扱いを受けてしまいましたが、国民にとっても行政にとっても不幸なできごとと言うほかないでしょう。しかし、国民が「天然」、「自然」という言葉に誤ったイメージを持ってしまっている以上、元に戻すのは難しいでしょう。

天下の朝日新聞が使っている1位の「土砂ダム」は、なんのことやらわかりません。土砂で作られたダムなら、溜池の土堤やロックフィルダムだって該当しそうです。読売の「土砂崩れダム」は長たらしいけど、一応、成因が反映されており、間違いを防ぐなら、この用語の方がよいかもしれません。堰き止めの結果誕生した湖については、「地震湖」は安直な造語でしかなく、おなじ安直な造語なら「震災湖」の方がましなくらいです。用語としては「せき止め湖」でよいと思います。火山活動による閉塞湖もあるので、「地震による」を頭に付ければより正確な表現になります。

※一般の人達の「天然ダム」に対するイメージはこの程度のものです。言葉の意味を全く理解していません。情けなくなります。


表1 インターネットの検索結果
用語 google yahoo  
天然ダム 15,900 19% 138,000 8%
土砂ダム 50,100 60% 1,100,000 67%
土砂崩れダム 13,600 16% 357,000 22%
河道閉塞 4,210 5% 38300 2%
83,810   1,633,300   
地震湖 89,100 49% 1,750,000 86%
閉塞湖 177 0% 280 0%
震災湖 16 0% 19 0%
せき止め湖 91,000 50% 293,000 14%
180,293   2,043,299   
※2008年5月28日17時現在               

表2 新聞各社の用語使用頻度
新聞社 地震による土砂崩れに伴う堰き止め現象    地震による土砂崩れで形成された湖   
天然ダム 土砂ダム 土砂崩れダム 河道閉塞 地震湖 堰き止め湖 震災湖 閉塞湖
朝日 1 47 0 0 7 1 0 0
読売 1 0 29 0 0 20 0 0
毎日 - - - 0 - - - -
日経 0 7 0 0 42 162 0 0
産経 0 3 0 0 0 2 0 0
※2008年5月28日17時現在(毎日新聞社サイトのみ検索不能)                    





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